ブルース・スプリングスティーン、その栄光の裏の苦悩を描く映画

クリエイティブプロデューサーの三好剛平氏が、自身がコメンテーターを務めるラジオ番組でブルース・スプリングスティーンの新作伝記映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』を熱烈に紹介した。この映画は、彼の輝かしいキャリアの裏に隠された、知られざる苦悩の時代に焦点を当てた作品となっている。

パブリックイメージと「誤解された名曲」

番組で三好氏はまず、「皆さんはブルース・スプリングスティーンにどのようなイメージをお持ちですか？」と問いかけた。一般的に「ザ・ボス」の愛称で親しまれ、パワフルでマッチョ、星条旗が似合うアメリカの象徴といったイメージが強いスプリングスティーン。しかし三好氏は、そのパブリックイメージと音楽性の間には大きな隔たりがあると指摘する。

その代表例が、歴史的ヒット曲「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」なのだ。三好氏は「一聴する限り、今申し上げたような明るいタッチで、タイトルからもさながらアメリカ屈指の愛国ソングみたいに聞こえるわけですけれども」と前置きしつつ、この曲の真実を解説。

実際には、ベトナム帰還兵の苦悩と悲哀を描いた明確なプロテストソングであり、「世界の音楽史上でも最も誤解された名曲」とまで言われることがあるという。一見ポジティブなサウンドの裏で、社会の矛盾や市井の人々の苦しみを物語のように描くことこそ、彼の音楽の奥行きであると語った。

映画が描くキャリアで最も苦しかった数年間

本作『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』は、一般的な伝記映画のように生誕から成功までの全キャリアを追うものではない。描かれるのは、キャリアを決定づけた1980年のアルバム『ザ・リバー』と、世界的な成功を収めた1984年の『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』に挟まれた、わずか数年間。スプリングスティーンの人生において、最も精神的に追い詰められていた時期に焦点を当てた異色の映画である。

この期間、彼はそれまでのダイナミックなロックサウンドとは全く異なる、異色のアルバム『ネブラスカ』を1982年に発表している。三好氏は、この映画がまさに『ネブラスカ』の制作過程と、その背景にあったスプリングスティーンの葛藤を描く物語であることを明かした。

魂の叫びを込めた異色のアルバム制作秘話

『ネブラスカ』は、自宅の簡易的な録音機材を使い、ほぼギター弾き語りで制作された極めて内省的なアルバムだ。その歌詞は、実際の殺人事件の犯人に自身を投影したものや、人々の報われない思い、救いのないエピソードなど、暗く重いテーマで満ちている。

三好氏によると、当時のスプリングスティーンは、急激な成功への重圧や、幼少期から抱える父親との関係を巡るトラウマによって「精神的にめちゃくちゃ追い込まれてた時期だった」と解説。本作は、その苦悩の淵から、彼が独白を綴るようにして『ネブラスカ』を完成させ、再び希望を見出すまでを描いている。

三好氏は、「陽気でパワフルなスプリングスティーンとは全く違う、むしろね、そのポジティブな姿の裏側で本当に死線スレスレに、もがいて苦しんでいた魂の叫びを発する、1人の人間スプリングスティーン」の実像を誠実に描いた作品だと力説した。

近年のヒット曲再現が中心の音楽伝記映画とは一線を画し、アーティストの孤独と痛みに寄り添った人間ドラマとして、来年のアカデミー賞にも絡むであろう傑作だと太鼓判を押している。